用途:住居
構造:木造
竣工:2024
かつての日本の住居の形式は、建物には建具で仕切られた外皮があり、敷地の垣根があり、さらには集落のまとまりを田畑のアウトラインがとりまく、といった複数の周縁に護られながら、周囲ともゆるくつながっていく構成であった。そのやわらかい階層には、生活と場所を豊かにつなげるスキマと、室内外を定義する境界を伸ばし拡げる余白がある。
計画地は鈴鹿峠の麓、建主が育った町である。近くには風情が残る細い旧東海道が延びる一方で、その道に沿うように、すぐ隣に大きな国道25号線が走る。
この二本の道が、山々や田畑ののどかさを残しながら、大きな工場や住居、アパート、ホテルなどが混在する現在の周辺状況を象徴している。
敷地は休耕地であり、土は草花に覆われ、東の方位は野原が隣地境界線を消してのびやかにひろがっていた。南北はアパートと住居が隣接し、西側の視界の先には鈴鹿山脈が連なるはずだがそのほとんどが巨大な工場によりふさがれていた。設計中には、野原の南東部分は工場の大きな従業員駐車場となった。
そのような状況で、登山が趣味のご夫婦が周囲の草花を愛でながら暮らす住まいを考えた。
周辺を観察し、今後状況が大きく変化する可能性が少ないであろう残余を想定しながら、野原に高さの異なる壁を立てた。
壁は両隣との距離感を調整したい南北側に並列配置し、生活と野原を地続きでつなげたい東側に抜ける谷間のような構成とした。
並んだ壁に屋根をかけ、生まれたレイヤーに木々を配し、壁、屋根、植物により駐車場からの視線の交錯や、隣地アパートからの見下ろしを切った。
壁によって切り取られたスキマが生活と野原や山々、空をつなげる。
全ての東西方向の壁は木材横貼りペンキ塗仕上げとし、内外とも同一の仕上げにすることで、壁と木々が連続反復し、室内と野原の境界が混ざりながら拡張していく様相をつくった。
壁と壁の間からは種々の樹冠がのぞき、住まい手側の住環境に与する役割だけでなく、この地域で生活する周囲の人々に対しても公園や林のような緑の借景を届ける。
壁の役割を分解しながら複層的に重ねることで拡張される庇護性がある。それは動物が巣において本能的に感じる安心感とつながっている。
壁と壁のスキマが知覚の向こう側をつくり、視線と意識は周囲の環境へと滲んでいく。
複数の壁が重なることで、層の内側にいるという安心感を増幅しながら、層の外への連続感も獲得するというある種、矛盾の両立が生まれる。
重なりは閉じると開くの両立の形であり、その階層は住みながら緑と壁の更新で適宜調整していくことができる。