用途:店舗
構造:木造
竣工:2025
2025年 創業250周年を迎えられるお餅屋さんの改装設計、及び敷地の全体デザイン計画.
『改修しつつも、以前とどこが変わったかわからないように』という当代店主のご要望に応えるべく、設計を進めた.
従来は店舗正面にあったお客様駐車場を店舗横に移設し、車通りの多い道路の横断リスクを回避した.
優れた職人の仕事のもと、もともと植わっていた植栽、花をすべて再利用され、弱っていた樹齢100年を超えるケヤキの木の移植も成功した.
これまでは裏方にあった下屋を新しい動線の門に見立てるなど、来客者が楽しめる動線計画を考えた.
来客スペースはいわゆる床の間ではなく、日本において床の間の原型となった、民家の柱間を飾りの場に見立てた『押板』の形とし、あえて格式ばった形式となるのを避けている.
設計においては外部デザインの他、店舗什器や来客スペース、事務スペース、作業スペースなどの機能更新を行った.
設計者自身が育った町のランドマーク的なお店.
近頃は町から朝熊山を望める場所は少なくなった.
新しい駐車場の横に東屋をつくり、かつてお伊勢参りに来た旅人が見たであろう朝熊山を象徴的に感じることができる場所とした.形の参照元は民家の米倉である.靴のまま腰掛けるベンチにも、履物を脱いで風を感じながらへんばもちを食べる場としても使用できる.朝熊山は東の方角であり、朝日も満月もこちらから昇る.
近くを散歩する人、学校帰りの小学生、地域バスを待つご老人、たくさんの方が自然とこの場所に腰掛け、町の空気を感じている様子を見かけると、陰ながらうれしくなる.
資本主義的な都市の論理を輸入するのではなく、この町に連綿と流れてきた空気を思い出し、250年前の風景に戻していくような仕事であった.
photo:中里和人